ギリシャの復活祭 パスハ なぜ特別なスープとパンを食べるの?
ギリシャの復活祭「パスハ」とは
ギリシャにおいて、復活祭(イースター)は「パスハ」(Πάσχα)と呼ばれ、一年で最も重要な祝日とされています。カトリックやプロテスタントの復活祭とは計算方法が異なるため、日付は年によって異なりますが、主に春に行われます。イエス・キリストの復活を祝う日であり、長い四旬節(レント)と呼ばれる期間の断食が終わる時でもあります。パスハは単なる休日ではなく、家族や親しい人々と集まり、共に喜びを分かち合う大切な機会です。この時期、ギリシャ全土がお祝いムードに包まれ、特に食卓は特別な料理で豊かに彩られます。
パスハの食卓に欠かせない伝統料理
パスハの時期、ギリシャの家庭ではいくつかの決まった伝統料理が作られます。中でも特に重要なのが、「マギリッツァ」、「ツレキ」、そして「赤い卵」です。
マギリッツァ(Μαγειρίτσα)
マギリッツァは、復活祭直前の土曜日の夜、つまり断食明けの最初の食事として食べられることが多い伝統的なスープです。羊の内臓(肺や心臓など)、レタス、ディル、ネギ、そして卵とレモンのソース(アヴゴレモノ)で作られます。見た目や材料に少し驚くかもしれませんが、これは長い断食で胃が小さくなった体に負担をかけずに、肉を食べる準備をするための知恵から生まれた料理と言われています。また、復活祭の生贄である羊を余すことなく使う、命への感謝という意味も込められています。春の訪れとともに芽吹くハーブや野菜がたっぷり使われていることも特徴です。
ツレキ(Τσουρέκι)
ツレキは、復活祭の時期に焼かれる甘いパンです。三つ編みのような特徴的な形をしており、多くの場合、生地にはマスティハ(Mastic Gum - ギリシャのエーゲ海に浮かぶヒオス島でとれる天然樹脂)やマハレピ(Mahlab - サクランボの種の殻を割って取り出した仁を挽いたもの)といった独特の香りがつけられます。このパンの編み込みの形は、キリストの体の象徴や、生命の循環を表していると言われています。ふっくらと焼き上げられたツレキは、家族や友人との集まりに欠かせないデザートであり、贈り物としてもよく使われます。
赤い卵(Κόκκινα Αυγά)
復活祭の象徴とも言えるのが、赤く染められたゆで卵です。卵は古くから生命や再生のシンボルとされています。特に赤い色は、キリストが十字架にかけられた際に流した血を表していると言われており、その復活によって新しい命がもたらされたことを象徴しています。復活祭の食卓では、この赤い卵を使った「ツォウグリズマ」(Τσούγκρισμα)という遊びが行われます。これは、それぞれの人が持った赤い卵を互いにぶつけ合い、最後まで割れなかった人が幸運に恵まれるとされるものです。この遊びは、卵の殻を破るように、キリストが墓から出て復活したことを祝う意味も持っています。
食文化からパスハ、そしてギリシャの文化を学ぶヒント
ギリシャの復活祭の食文化は、単にお腹を満たすだけでなく、深い宗教的な意味合いや、命への感謝、家族の絆など、様々な文化的なメッセージを含んでいます。
- 生命と再生のシンボル「卵」: なぜ卵が生命の象徴なのか、他の文化で卵がどのように扱われているかを調べてみるのも面白いでしょう。ギリシャのように卵を赤く染める風習は他の国にもあるか、比べてみても発見があるかもしれません。
- 断食明けの知恵: なぜ断食をするのか、断食明けに食べる料理にどのような工夫があるのかを考えることは、人々の信仰心や生活の知恵を学ぶことにつながります。
- 分かち合いと絆: ツレキやマギリッツァを家族や友人と共に食卓を囲んで食べることは、パスハの喜びを分かち合い、絆を深める大切な行為です。食事が人々のつながりにおいて果たす役割について考えることができます。
- 簡単な体験: 自宅でゆで卵をタマネギの皮などで赤く染めてみたり、市販のパンを三つ編みにアレンジしてみたりするなど、簡単な方法でパスハの食文化の一部を体験してみることも、異文化への興味を持つきっかけになります。
ギリシャの復活祭の食文化を通して、その背景にある歴史や信仰、人々の暮らしに思いを馳せることは、異文化理解を深める豊かな学びとなるでしょう。