食文化で知る世界の祝日

イタリアの謝肉祭 カーニバル なぜフリッテッレやキアッケレを食べるの?

Tags: イタリア, カーニバル, フリッテッレ, キアッケレ, 食文化

賑やかなお祭り「カーニバル」とは

イタリアでは、春の訪れを前に、街が色とりどりの衣装と音楽でいっぱいになる賑やかなお祭りがあります。それが「カーニバル」(Carnevale)、日本語では「謝肉祭(しゃにくさい)」とも呼ばれる祝祭です。特にヴェネツィアの華やかな仮面舞踏会は世界的に有名ですが、イタリア各地でそれぞれ特色のあるカーニバルが催されます。このお祭りの期間は、通常、キリスト教の「四旬節(しじゅんせつ)」が始まる直前の数週間にあたります。四旬節とは、イースター(復活祭)前の40日間の準備期間で、かつては肉を断つなどの厳しい断食や節制が行われました。

カーニバルは、この四旬節が始まる前に、冬の終わりと春の到来を祝い、また厳しい節制期間に入る前に最後の楽しみを味わうための期間として発展しました。「謝肉祭」という名前も、「肉(Carne)」に「さようなら(vale)」するという言葉が語源になったという説があるほど、食と深い関わりがあります。

カーニバルに欠かせない揚げ菓子

イタリアのカーニバルに登場する伝統的なお菓子はたくさんありますが、中でも代表的なのが「フリッテッレ(Frittelle)」と「キアッケレ(Chiacchiere)」という2種類の揚げ菓子です。

フリッテッレは、小麦粉や卵、砂糖などを混ぜた生地を揚げたもので、中にレーズンやリンゴが入ったり、リコッタチーズが加えられたりすることもあります。小さな丸い形や、少し不揃いな形のものがあり、揚げたてに粉砂糖をたっぷりまぶして食べます。外はカリッと、中はふっくらとした食感が特徴です。

一方、キアッケレは、薄く伸ばした生地をリボン状や四角形に切って揚げたお菓子です。揚げたてはサクサクとした軽い食感で、こちらもたっぷりの粉砂糖をまぶしていただきます。このお菓子は地域によって呼び名がたくさんあり、フラッペ(Frappe)、ガラニ(Galani)、ブージエ(Bugie)など、20種類以上もの名前があると言われています。「キアッケレ」という名前はイタリア語で「おしゃべり」という意味ですが、その名の通り、サクサクとした軽い食感が、まるで楽しげなおしゃべりのようだから、あるいは、おしゃべりしながらつい手が伸びてしまうから、などと言われています。

なぜ揚げ菓子が食べられるのか?

カーニバルにこれらの揚げ菓子が登場するのには、いくつかの理由があります。

最も大きな理由の一つは、前述した四旬節の断食に備えるためです。かつて四旬節には、肉だけでなく、卵、バター、牛乳、砂糖、油といった、豊かさや動物性のものと関連付けられる食材の摂取を控える習慣がありました。カーニバルの期間は、これらの「禁止される」食材、特に油や砂糖、卵などを使い切るための機会だったのです。たっぷりの油で揚げるお菓子は、まさにこれらの食材を大量に消費するのに適していました。

また、揚げ物は古くから、お祝い事や特別な日に作られることの多い調理法でした。貴重な油を惜しみなく使って作られる揚げ菓子は、非日常であり、祝祭の雰囲気を高める食べ物だったのです。

さらに、冬の終わりが近づき、春の訪れを待つ時期に、エネルギーをたっぷり取れる甘い揚げ菓子は、人々に活力を与えるという意味合いもあったのかもしれません。

子どもたちへのヒント

食文化を通して異文化を理解する視点

カーニバルの揚げ菓子を知ることは、単に美味しいお菓子を知ること以上の意味を持ちます。これは、人々の信仰や習慣(この場合は断食)が、その地域の食文化にどれほど深く影響を与えているかを知る機会になります。また、同じ国の中でも地域によって食文化やお菓子の名前が異なることを知ることで、多様性への理解も深まります。

仮装して賑やかに過ごすお祭りの裏に、次の期間への準備としての「食べ納め」の意味があることを知ることで、祝祭の持つ重層的な意味合いを感じ取ることができます。食を通して、世界の様々な文化に触れ、それぞれの違いや共通点について考えるきっかけを、子どもたちと一緒に見つけてみましょう。