食文化で知る世界の祝日

ユダヤの過越祭(ペサハ) なぜマッツァを食べるの?

Tags: ユダヤ教, ペサハ, 過越祭, マッツァ, 食文化, 世界の祝日

ユダヤの過越祭(ペサハ)とは

ユダヤ教にとって非常に大切なお祭りの一つに「ペサハ」(Pesach)があります。これは「過越祭」とも呼ばれ、古代にユダヤの人々がエジプトで奴隷として苦しんでいた状態から解放され、自由を得て旅立った出来事を記念するものです。

ペサハは通常、春の訪れと共に、ユダヤ暦のニサンの月の15日から7日間(または8日間)にわたって祝われます。このお祭りの中心には、食に関する特別な決まりや習慣が数多くあります。

ペサハに欠かせない「マッツァ」

ペサハの期間中に最も特徴的な食べ物が「マッツァ」(Matzah)と呼ばれるパンです。これは、酵母を使って発酵させない、平たくて固いクラッカーのような種なしパンです。この時期、ユダヤの家庭では、酵母や膨張剤を使ったパン(ハメッツ chametzと呼ばれます)を一切食べませんし、家の中から取り除きます。

なぜペサハの期間にマッツァだけを食べるのでしょうか。その理由は、聖書に書かれている出エジプトの物語にあります。ユダヤの人々がエジプトを出る際、あまりにも急いでいたため、パン生地が膨らむのを待っている時間がありませんでした。そこで、酵母を入れずにすぐに焼いたパンを持って旅立ったとされています。マッツァは、この時の「急ぎの旅立ち」と「自由への脱出」を象徴する食べ物なのです。

セデルの特別な食卓

ペサハの最初の夜(地域によっては二日目の夜も)には、「セデル」(Seder)と呼ばれる特別な食事会が開かれます。家族や友人が集まり、ハガダー(Haggadah)という書物を使って出エジプトの物語を読み進めながら食事をします。

セデルの食卓には、「セデルプレート」と呼ばれる特別なプレートが置かれます。ここには、ペサハの出来事やエジプトでの苦役を象徴する様々な食べ物が並べられます。

これらの食べ物一つ一つに意味があり、セデルではそれらを味わいながら、自分たちの歴史や信仰について学び、語り継いでいくのです。

食文化にまつわるエピソード

セデルの食事は、子どもたちが飽きずに参加できるよう、様々な工夫がされています。例えば、セデルの初めにマッツァの一部を隠し、最後に子どもたちがそれを見つける「アフィコマン探し」というゲームがあります。これを見つけた子どもにはプレゼントが贈られることもあり、物語への興味を引き出す楽しい習慣です。

また、セデルの物語を読むハガダーには、四人の息子が登場します。賢い息子、悪い息子、単純な息子、ものを尋ねられない息子です。それぞれの息子にどのように過越祭の意味を説明するかを通じて、家族が共に学び、考えを深める機会となります。

家庭で体験するヒント

ペサハの食文化を体験してみたい場合、マッツァは輸入食品店などで手に入れることができる場合があります。クラッカーのように、ジャムやチーズを乗せてシンプルに味わってみるのも良いでしょう。

また、セデルプレートの真似事として、お皿の上に身近な食材を使って象徴的な品々を並べてみるのも面白いかもしれません。苦菜の代わりに少し苦みのある野菜を、ハローセトの代わりにナッツとドライフルーツを混ぜたものを使うなど、アレンジして体験できます。出エジプトの物語に関連する絵本を読んだ後に、これらの食べ物の意味について話し合ってみるのも、子どもたちの理解を助ける良い方法です。

食文化から学ぶ異文化理解

ユダヤの過越祭の食文化を知ることは、食事が単にお腹を満たすだけでなく、歴史や信仰、そして家族の絆を伝える大切な役割を持っていることを教えてくれます。マッツァのように、一つ一つの食べ物に込められた意味を知ることで、その文化の人々が何を大切にしているのか、どのような歴史を歩んできたのかを感じ取ることができます。

このお祭りを通して、「どうしてこの特別な時にこの食べ物を食べるのだろう?」「この食べ物は、その人たちの歴史や気持ちとどうつながっているのだろう?」といった問いかけを子どもたちと共に考えてみることで、異文化への理解と関心を深めるきっかけとなるでしょう。

ペサハの食卓は、過去の出来事を現在に生きる自分たちの問題として捉え直し、次の世代へと語り継いでいくための生きた教材と言えます。食を通して、世界の多様な文化に触れることは、私たち自身の世界を広げる素晴らしい機会となるのです。