ニュージーランドの星のお祝い マタリキ なぜハーンギを地面で作るの?
ニュージーランドの星のお祝い マタリキとは
ニュージーランドには、マオリの人々にとって大切な新年を祝う「マタリキ」という祝日があります。マタリキは特定の太陽暦の日付ではなく、冬至(南半球では6月頃)の後に昇る星団「マタリキ」(プレアデス星団)が初めて夜明け前の空に見えることで始まります。この時期はだいたい6月終わりから7月にかけてにあたります。
マオリの人々はこの星団の出現を見て、一年の終わりと新しい始まりを感じてきました。マタリキは、過ぎ去った一年を振り返り、亡くなった家族や友人を偲び、そして来るべき新しい年に希望を託すための大切な期間です。家族や地域の人々が集まり、歌や踊り、語り合いを通じて絆を深めます。そして、このお祝いに欠かせないのが、特別な食文化です。
大地の恵みを味わう伝統料理「ハーンギ」
マタリキのお祝いの食卓を彩る伝統料理として最も代表的なものが「ハーンギ(Hāngī)」です。ハーンギは、地面に掘った穴の中で、熱した石を使って食材を蒸し焼きにする、マオリの伝統的な調理法です。
ハーンギで使われる食材は、肉(豚肉、鶏肉、牛肉など)、魚、そしてカボチャ、ジャガイモ、サツマイモ(クマラ)、ニンジンなどの根菜類が一般的です。これらの食材をバスケットに入れたり、布で包んだりして、地面の穴に並べます。
なぜハーンギは地面で作るの? その意味と背景
ハーンギを地面で作るのには、いくつかの深い意味があります。
まず一つは、自然への感謝です。地面は作物を育て、食材を育む大地そのものです。その大地の中で火を起こし、熱した石(火山活動が活発なニュージーランドには豊富な天然の石があります)を使って調理することは、大地からの恵みに感謝し、自然と共にあることへの敬意を表しています。
次に、共同体とのつながりです。ハーンギは非常に時間と手間がかかる調理法です。地面を掘る、石を熱する、食材を準備して穴に並べる、そして掘り出して盛り付けるまで、一人ではできません。家族や地域の人々が力を合わせ、協力して作業を行います。この共同作業を通じて、人々の絆はより一層強まります。マタリキの時期にハーンギを囲むことは、文字通り皆で力を合わせ、収穫の喜びや新しい年の希望を分かち合うことなのです。
また、祖先からの伝統の継承という意味もあります。この調理法は、マオリの祖先から何世代にもわたって受け継がれてきた知恵と技術です。マタリキのような特別な機会にハーンギを作ることは、その伝統を守り、次の世代に伝えていくことでもあります。
熱した石の蒸気でじっくりと火を通すハーンギは、食材がとても柔らかく、独特のスモーキーな香りがついて美味しく仕上がります。これは現代のオーブン料理や蒸し料理とは一味違う、大地と火が織りなす特別な味わいです。
子どもたちに伝えるヒント
マタリキとハーンギの話は、子どもたちに世界の多様な文化や、食が単なる栄養摂取だけではないことを伝える良い機会になります。
- 「地面で作る料理」ってどんな感じかな?:調理法そのものの面白さや珍しさを入り口にするのはどうでしょうか。火を使いますが、かまどやグリルとは違う「地面」という場所に焦点を当ててみます。
- 「みんなで協力して作るご飯」:ハーンギは一人で作れない大変な料理です。家族や友達と一緒にお料理をする時のことを話したり、運動会や文化祭でみんなで協力して何かを作る経験と重ね合わせたりすることで、共同作業の意味を伝えることができます。
- 「自然の力を使った料理」:熱した石の力、大地の力を使って調理するという話は、自然とのつながりや昔の人々の知恵について考えるきっかけになります。
- マタリキの絵本や歌:マタリキは子ども向けの絵本や歌も多く作られています。これらを通じて、星のお祝いの楽しい雰囲気に触れることができます。
- 「星のお正月」:日本のお正月と比べて、どこが同じでどこが違うか話し合ってみるのも面白いでしょう。どちらも家族で集まること、新しい年を祝うことは共通しています。
残念ながら家庭で本格的なハーンギを作るのは難しいですが、アルミホイルで食材を包んで蒸し焼きにしたり、ホットプレートで食材を蒸したりするなど、「包んで火を通す」「みんなで囲んで食べる」といったハーンギの一部の要素を体験してみるのも良いかもしれません。
食を通して異文化を理解する
ニュージーランドのマタリキとハーンギを知ることは、食文化がその土地の自然、歴史、そして人々の暮らしや価値観と深く結びついていることを理解する助けとなります。ハーンギは、マオリの人々が大地と共に生き、共同体を大切にしてきた証であり、祖先から受け継いだ誇り高い伝統です。
世界の様々な祝日とその食文化に目を向けることで、それぞれの文化が持つユニークな魅力や、人間にとって食が持つ普遍的な意味(感謝、共有、つながりなど)に気づくことができます。こうした学びは、子どもたちが多様な文化を持つ人々との共生について考えるための大切な一歩となるでしょう。