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ポーランドの脂木曜日(トルスティ・チュワルテク) なぜドーナツ「ポンチュキ」を食べるの?

Tags: ポーランド, 脂木曜日, ポンチュキ, 謝肉祭, 食文化, ヨーロッパ

脂木曜日(トルスティ・チュワルテク)とは

ポーランドには、「トルスティ・チュワルテク(Tłusty Czwartek)」と呼ばれる、特別な木曜日があります。これは、カトリックの断食期間である四旬節が始まる直前の、謝肉祭(カーニバル)の最終週の木曜日にあたります。日本語では「脂木曜日」と訳されることが多く、その名の通り、この日はカロリーの高い、脂っこいものを心ゆくまで食べる日として知られています。

歴史的には、四旬節の厳しい断食に備え、家庭に残った砂糖やバター、卵といった贅沢な食材を使い切るために、お菓子や料理を作る習慣がありました。現代では断食の習慣は薄れつつありますが、この日を楽しく祝い、おいしいものをたくさん食べる伝統はしっかりと受け継がれています。

脂木曜日に欠かせない伝統のお菓子「ポンチュキ」

脂木曜日にポーランドの人々が最も楽しみにしているもののひとつが、「ポンチュキ(pączki)」です。ポンチュキは、卵やバターをたっぷり使った生地を揚げた、丸い形をした伝統的なドーナツです。中にバラのジャムやプラムのジャム、時にはチョコレートクリームなどを詰め、表面には粉砂糖をかけたり、アイシングやオレンジピールで飾り付けたりします。

ポンチュキは、ふわふわとした食感と豊かな風味が特徴で、家庭で作られるほか、街中のパン屋さんやお菓子屋さんでもこの時期には大量に販売されます。脂木曜日の朝早くから、ポンチュキを求める人々でお店の前に行列ができる光景は、この時期のポーランドの風物詩となっています。

なぜこの日にポンチュキを食べるの?

ポンチュキを脂木曜日に食べる習慣には、いくつかの意味合いがあります。

まず、謝肉祭の「食べおさめ」という意味があります。謝肉祭は、続く四旬節の断食期間に入る前に、人々が宴や楽しみを謳歌する期間です。ポンチュキのような、砂糖やバターをたくさん使った揚げ菓子は、まさにその「贅沢」を象徴する食べ物であり、断食前の最後の機会に心置きなく楽しむものとされてきました。

また、ポンチュキは縁起物としても考えられています。この日にポンチュキをたくさん食べると、一年を通して良いことがある、幸運に恵まれると言われています。逆に、脂木曜日にポンチュキを食べないと、その年は不運に見舞われる、というような言い伝えさえあるほどです。そのため、多くの人がこの日には最低でも一つはポンチュキを食べようとします。

古い時代には、ポンチュキの中に小さなアーモンドやコインなどを隠して揚げることもありました。それを当てた人は特に幸運に恵まれる、といった遊びもあったそうです。

食文化を通して見えるポーランドの文化

ポンチュキを食べるという習慣は、単なるお菓子の話に留まりません。ここからは、ポーランドの人々が伝統や祝祭日を大切にする心や、食を通じてコミュニティとのつながりを確認する文化を垣間見ることができます。

脂木曜日には、家族や友人、職場の同僚など、多くの人が集まってポンチュキを分け合って食べます。お店で買ったものだけでなく、家庭で手作りする人も多く、その過程や出来上がったポンチュキを囲んで会話が弾みます。これは、食が単にお腹を満たすだけでなく、人々の絆を深める大切な役割を果たしていることを示しています。

また、謝肉祭という祝祭日が持つ「節制期間(四旬節)への導入」という性格と、ポンチュキという「贅沢な食べ物」が結びついている点は興味深い文化的背景です。規律と解放、あるいは日常と非日常といった対比が、食文化を通して表現されているとも考えられます。

子どもたちに伝えるヒント

ポンチュキの話は、子どもたちにポーランドの文化や祝日について楽しく伝える良いきっかけになります。

ポンチュキという、子どもにも身近な「ドーナツ」を切り口にすることで、遠い国ポーランドの文化や、祝祭日に食が果たす役割について、興味を持って学ぶことができるはずです。

まとめ

ポーランドの「脂木曜日」に食べられる伝統的なドーナツ、ポンチュキは、謝肉祭の「食べおさめ」や幸運を願うという意味が込められた、文化的に重要な食べ物です。ポンチュキを囲んで人々が集まる光景は、食が社会的なつながりを育む役割を果たしていることを示しています。ポンチュキを知ることは、ポーランドの豊かな食文化や、祝祭日と人々の暮らしがどのように結びついているのかを理解する一歩となるでしょう。このような食文化を通して、世界の多様な文化に触れる機会をぜひ大切にしてみてください。