ポルトガルの聖アントニオ祭 なぜイワシを焼いて食べるの?
ポルトガルの首都リスボンでは、毎年6月になると街がお祭りムードに包まれます。特に盛り上がりを見せるのが、6月13日の「聖アントニオ祭(Festas de Santo António)」です。街角には色とりどりの飾り付けが施され、音楽が響き渡り、人々は夜遅くまで賑やかに過ごします。そして、このお祭りの象徴とも言えるのが、香ばしい煙を上げて焼かれる「焼きイワシ(Sardinhas Assadas)」です。
聖アントニオ祭とは
聖アントニオ祭は、リスボンの守護聖人である聖アントニオを称えるお祭りです。聖アントニオは13世紀にリスボンで生まれ、後にイタリアなどで活躍した聖職者です。特に縁結びの聖人としても知られており、お祭りの期間中には多くのカップルが結婚式を挙げます。6月12日の夜から13日にかけてクライマックスを迎え、華やかなパレードが行われたり、街中の通りに屋台が出て人々が飲食やダンスを楽しんだりします。
祭りの食卓に欠かせない焼きイワシ
聖アントニオ祭の期間中、リスボンの街を歩くと、どこからともなく漂ってくるのが焼きイワシの香りです。通りにはたくさんの屋台が並び、炭火でイワシを焼いています。この焼きイワシが、お祭りの主役とも言える存在なのです。
焼きイワシは、シンプルに塩を振って焼くだけですが、炭火でじっくり焼かれた香ばしさと、旬のイワシの脂の乗った旨味がたまりません。通常は、素朴なパンの上に乗せて、焼きたて熱々を手に持ってそのままかぶりつくのが伝統的なスタイルです。付け合わせには、茹でたジャガイモやピーマンのグリルなどが添えられることもあります。
イワシ以外にも、カラコール(カタツムリ)や、ケイジョ・フレスコ(フレッシュチーズ)などが屋台で提供され、人々は家族や友人との会話を楽しみながら、これらの料理とヴィーニョ・ヴェルデ(微発泡ワイン)などを味わいます。しかし、やはりこのお祭りの味といえば、何と言っても焼きイワシなのです。
なぜ聖アントニオ祭にイワシを食べるのか?
聖アントニオ祭でイワシを食べる習慣には、いくつかの理由があると言われています。
一つは、聖アントニオにまつわる伝説です。聖アントニオは説教が大変上手だったそうですが、ある時、人々に耳を傾けてもらえませんでした。そこで彼は川辺に行き、魚たちに向かって説教を始めました。すると、驚いたことにたくさんの魚が水面に集まってきて、聖アントニオの言葉に耳を傾けたという逸話が残っています。この伝説に登場する魚の中でも、特に身近でポピュラーなイワシが、聖アントニオの魚として結びつけられたという説があります。
もう一つは、時期的な理由です。6月はちょうどイワシが最も美味しくなる旬の時期にあたります。脂が乗っていて、焼くと非常に美味しくなります。
さらに、イワシは古くからポルトガルの食卓に欠かせない、庶民にとって身近で手頃な食材でした。たくさんの人が集まるお祭りにおいて、手軽に調理でき、多くの人に提供できるイワシは、まさにぴったりのごちそうだったのです。
伝説、旬の美味しさ、そして庶民的な食材としての親しみやすさ。これらが組み合わさって、聖アントニオ祭と焼きイワシは切っても切れない関係になったと考えられています。焼きイワシの香りは、単なる食べ物の香りではなく、リスボンの人々にとってお祭りの始まりと賑わいを告げる特別な香りなのです。
子どもたちに伝えるヒント
聖アントニオ祭の食文化を子どもたちに伝える際には、聖アントニオと魚の伝説を紹介すると興味を持ってもらえるかもしれません。「もし、魚がお話を聞いてくれたら、どんなことをお話したいかな?」と問いかけてみるのも良いでしょう。
また、お祭りの賑やかな様子を写真や動画で見せながら、「ポルトガルでは、お祭りの時に街中で大きな魚を焼いて、みんなで一緒に食べるんだよ」と伝えることで、食文化が単なる食事ではなく、人々が集まり、喜びを分かち合うための大切な要素であることを感じてもらうことができます。
家庭でポルトガルの雰囲気を少しだけ体験したい場合は、新鮮なイワシが手に入れば、オーブントースターなどでシンプルに塩焼きにしてパンと一緒に食べてみるのも良いでしょう。イワシが難しければ、他の青魚を塩焼きにしてパンと合わせてみるなど、身近な食材でアレンジすることも可能です。魚の美味しさや、世界には魚をお祭りで食べる文化があることを伝えるきっかけになるかもしれません。
まとめ
ポルトガルの聖アントニオ祭で食べられる焼きイワシは、単なる伝統料理ではなく、聖アントニオにまつわる伝説や旬の恵み、そして人々の暮らしと深く結びついた、お祭りには欠かせない大切な食文化です。露店から漂う香ばしい煙、人々の笑顔、そして手で持ってかぶりつくイワシ。これらすべてが一体となって、リスボンのお祭りの活気と喜びを生み出しています。食を通して、世界の様々な文化や人々の営みに思いを馳せることは、異文化への理解を深める第一歩となるでしょう。