ロシアの冬送り マスレニツァ なぜ太陽のパンケーキ「ブリニ」を食べるの?
ロシアの冬を送り出すお祭り「マスレニツァ」
世界には、厳しい冬が終わり、暖かな春が訪れるのを祝うお祭りがたくさんあります。ロシアにも、冬の終わりを告げ、春を迎える準備をする大切なお祭りがあります。それが「マスレニツァ」です。
マスレニツァは、東方正教会(キリスト教の一派)の暦で、イースター(復活祭)の前に約40日間設けられる「大斎(たいさい)」(英語ではレント)という期間の直前の一週間に祝われます。大斎の間は肉や乳製品などを食べない習慣があるため、その前にこれらの食材をたっぷり使ったごちそうを食べて楽しむ期間でもあります。そのため、この一週間は「バター週間」とも呼ばれることがあります。
マスレニツァに欠かせない「ブリニ」とは
マスレニツァのお祭りで最も重要な食べ物が「ブリニ」です。ブリニは、小麦粉、卵、牛乳、バターなどを使って作られる、ロシアの伝統的な薄焼きパンケーキです。クレープよりも少し厚みがあることが多いですが、ホットケーキのようにふわふわではなく、どちらかというと平たくてもちもちとした食感です。
このブリニを、お祭り期間中は家族や友人と一緒にたくさん焼いて食べます。食卓には、サワークリーム、ジャム、蜂蜜、イクラ、サーモン、キャビア、バターなど、様々なトッピングが並びます。甘いものからしょっぱいものまで、色々な味でブリニを楽しむのがマスレニツァの風習です。
なぜマスレニツァにはブリニなのか
では、なぜマスレニツァにブリニが欠かせないのでしょうか。そこには、ロシアの文化や歴史に根ざした深い意味が込められています。
最もよく知られている理由の一つは、ブリニの丸い形が太陽を象徴しているという説です。厳しい冬が終わり、暖かな春が来ることを願って、太陽の形に似たブリニを食べることで、太陽のエネルギーを取り込み、春の訪れを早めようとした、あるいは感謝を表したと言われています。マスレニツァが元々、キリスト教が広まる前のスラヴの冬送りのお祭りであったことから、自然の力を崇拝する信仰と結びついていると考えられます。
また、前述のように、大斎に入る前の最後の贅沢として、バターや卵、牛乳をたっぷり使うブリニを食べる習慣も関係しています。冷蔵技術が発達していなかった時代に、冬の間に溜め込んだ食材(特に乳製品)を使い切るという意味合いもあったかもしれません。
ブリニにまつわるエピソードと子ども向けヒント
マスレニツァのブリニ作りには、昔からの様々な風習やエピソードがあります。例えば、一番最初に焼けたブリニは、昔は貧しい人にあげたり、亡くなった家族のために供えたりした地域もあったそうです。これは、食料を分け合い、祖先を敬う気持ちを表しています。
子どもたちにとっては、ブリニを焼くこと自体が楽しいイベントです。薄く丸く焼くのは少しコツがいるかもしれませんが、家族みんなで協力して作る時間は素敵な思い出になります。焼き上がったブリニを高く積み重ねる様子は、見ているだけでもワクワクします。そして何より、たくさんのトッピングの中から好きなものを選んで、自分だけのブリニを作るのは、子どもにとって特別な体験になるでしょう。
家庭でマスレニツァの食文化を体験してみたい場合は、ホットケーキミックスを使って薄めのパンケーキを焼いてみるのはいかがでしょうか。イチゴジャム、ブルーベリージャム、蜂蜜、少し塩味のあるクリームチーズなどを添えれば、手軽にブリニ風の食卓を楽しむことができます。ロシアの冬や春の歌を聴いたり、雪解けや太陽の絵を描いたりしながら、ブリニを味わうのも良いでしょう。
食文化から世界の文化を知る
ロシアのマスレニツァに食べるブリニを通して、私たちは一つの国の文化や歴史、そして人々の願いを知ることができます。ブリニの形に込められた太陽への感謝や春を待ちわびる気持ちは、世界中の人々が季節の移り変わりに対して抱く普遍的な感覚とつながっています。
子どもたちに世界の祝日や文化を伝えるとき、そのお祭りでどんなものを食べるのか、なぜそれを食べるのかを一緒に考えてみるのは、異文化理解への素敵な入り口になります。「丸いパンケーキから、ロシアの人たちが冬の終わりにどんなことを願っていたか、想像できるかな?」「日本の冬の終わりのお祝いでは何を食べるかな?それはどんな形をしているだろう?」といった問いかけを通して、子どもたちの探求心や異文化への興味を引き出すことができるでしょう。
食は、単にお腹を満たすだけでなく、その土地の自然、歴史、宗教、人々の暮らしや心と深く結びついています。マスレニツァのブリニをきっかけに、世界の様々な食文化に目を向けてみませんか。