ウクライナのクリスマス なぜ食卓に12種類の料理が並ぶの?
ウクライナの特別なクリスマス
世界の多くの国で12月25日に祝われるクリスマスですが、ウクライナでは少し違います。ウクライナ正教会の伝統では、クリスマスは主に1月7日頃に祝われます。そして、このクリスマスの時期、ウクライナの家庭ではとても特別な食文化があります。それは、クリスマスイブにあたる1月6日の夜にいただく「スヴャタ・ヴェチェラ(Sviata Vecheria)」と呼ばれる聖なる晩餐です。
12種類の料理が並ぶ理由
「スヴャタ・ヴェチェラ」の食卓には、なんと12種類もの料理が並ぶのが伝統です。なぜ12種類なのでしょうか。これは、キリストの12使徒にちなむという説や、一年の12ヶ月を表しているという説など、諸説ありますが、いずれにしても聖なる数として大切にされています。
この12種類の料理には、もう一つ大きな特徴があります。それは、肉や乳製品を使わないということです。これは、クリスマスまでの一定期間、正教会の伝統的な断食を行う習慣があるためです。断食を終え、クリスマスの喜びを迎える食卓なので、質素ながらも体に優しい、植物性の食材や魚を使った料理が中心となります。
「スヴャタ・ヴェチェラ」の代表的な料理
12種類の料理は家庭によって様々ですが、いくつか代表的なものを紹介します。
- クティア(Kutia) これが「スヴャタ・ヴェチェラ」で最も大切な料理と言われます。麦や米を茹でたものに、ケシの実、はちみつ、くるみ、ドライフルーツなどを混ぜて作られる甘いプディングのような料理です。麦は豊穣、ケシの実は豊かさ、はちみつは健康や喜び、くるみは強さを象徴すると言われています。家族で同じ皿から少しずつ食べることで、先祖とのつながりや家族の絆を確かめ合う意味合いもあります。
- ボルシチ(Borshch) ウクライナを代表するスープですが、この日のボルシチは肉を使わず、ビーツや野菜、キノコなどを煮込んだものです。深みのある赤色が特徴です。
- ヴァレニキ(Varenyky) ウクライナ風の餃子やラビオリのようなものです。ジャガイモ、キャベツ、キノコ、ケシの実などを詰めたものがよく食べられます。
- 魚料理 揚げたり焼いたりした魚料理も、肉の代わりに重要な一品です。
- ピロヒー(Pyrihy) 具材を詰めて焼いたり揚げたりしたパンやお菓子です。ジャガイモやキャベツ、ケシの実などを詰めます。
- ウズヴァル(Uzvar) ドライフルーツ(リンゴ、ナシ、プルーンなど)を煮出して作られる甘い飲み物です。これも断食明けの体に優しく、フルーツの恵みを感じさせる飲み物です。
これらの料理一つ一つに、家族の健康や豊かさ、先祖への感謝といった願いが込められています。
食文化を通してウクライナのクリスマスを知る
ウクライナの「スヴャタ・ヴェチェラ」は、単にお腹を満たすための食事ではありません。12種類の料理を囲むことで、家族が集まり、一年を振り返り、来る年への希望を分かち合います。肉や乳製品を使わないというルールや、クティアに使われる特別な材料からは、彼らの宗教的な信仰や、自然の恵みへの感謝、そして先祖を敬う心がうかがえます。
子どもたちに伝えるヒント
- ウクライナのクリスマスは1月7日頃という日付の違いから、世界のクリスマスの多様性に目を向けてみましょう。
- 12種類の料理を並べるという習慣について、日本の行事食と比べて「いくつ料理が並ぶかな?」と考えてみるのも面白いかもしれません。
- クティアに使われる麦やケシの実、はちみつなどが、それぞれどんな意味を持っているのか、物語のように伝えてみるのはどうでしょうか。
- もし可能であれば、ドライフルーツと水で簡単なウズヴァルを作ってみるなど、少しだけ体験してみるのも良いかもしれません。
- 家族みんなで食卓を囲むことの温かさや大切さを、ウクライナのクリスマスの習慣を通して考えてみるきっかけになります。
食文化は、その国の歴史や信仰、人々の暮らしがぎゅっと詰まった宝箱です。ウクライナのクリスマスの食卓を知ることで、遠い国の文化や人々の心に触れることができるでしょう。